日本メーカーのCRA役割ガイド:EUブランド・OEM・輸入者の分担

産業用ロボット、FA機器、半導体製造装置をEUへ出す日本企業向け。EUブランド、OEM、輸入者、販売者、認定代理人の責任分界を整理します。

CRA Evidence Team 公開 2026年6月21日
日本のFA・産業機器メーカーからEUブランド、輸入者、販売者へCRA証拠が渡る役割分担の図
この記事の内容

日本メーカーのサイバーレジリエンス法(CRA)対応で最初に固めるべき問いは、「誰がメーカーか」です。

ファナック、安川電機、三菱電機、キーエンス、オムロン、東京エレクトロン、SCREEN、アドバンテストのような企業は、自社ブランドでEUに出す製品もあれば、EUブランドやシステムインテグレータ向けに部品・装置・ファームウェアを供給する案件もあります。同じ技術でも、販売名義が変わるとCRA上の役割が変わります。

このガイドは製品分類ではなく、役割分担だけを扱います。産業用ロボット・FA機器の製品分類とIEC 62443との差分は日本の産業用ロボット・FAメーカー向けCRA実戦ガイド、半導体製造装置とリモート保守は日本の半導体製造装置向けCRA実務ガイドを参照してください。

要約

  • 自社名義でEUに販売する日本メーカーは、通常その製品のメーカーです
  • EUブランド名で販売されるOEM供給では、対外的なメーカーはEUブランドになることが多いです
  • ただし日本側のソフトウェア部品表(SBOM)、脆弱性判定、更新、サポート期間、技術文書は契約で求められます
  • 輸入者と販売者はメーカーではありませんが、CE表示、書類、サポート期間、連絡先、リスク兆候を確認します
  • EU認定代理人は任意の委任先であり、設計・リスク評価・脆弱性対応そのものを引き受ける役割ではありません
  • 輸入者や販売者が自社ブランドで販売したり、更新経路・クラウド・用途を大きく変えたりすると、メーカー責任が移ることがあります

まず販売名義を見る

CRAのメーカーは、実際に工場で組み立てた会社だけでは決まりません。重要なのは、誰の名前または商標でEU市場に出るかです。

日本メーカー、EUブランド、輸入者、販売者、認定代理人のCRA役割分担。OEM供給ではEUブランドが対外メーカーになり、日本側はSBOMと脆弱性証拠を渡す。自社ブランド販売や大きな変更ではメーカー責任が移る。
CRAの役割は「誰が作ったか」だけでなく、「誰の名義でEU市場に出るか」と「誰が製品を大きく変えたか」で決まります。
取引形態 対外的な役割 日本側で準備すべきもの
日本メーカーが自社ブランドでEU販売 日本メーカーがメーカー 技術文書、SBOM、更新方針、脆弱性対応、EU向け連絡体制
EUブランド向けOEM / ODM EUブランドがメーカーになることが多い 部品・ファームウェア証拠、SBOM、修補SLA、技術文書の該当部分
EUの輸入者が日本ブランド製品を輸入 日本メーカーがメーカー、輸入者は確認役 輸入者が確認できる書類、表示、サポート期間、連絡先
EU販売者が自社ブランドで再販売 販売者がメーカーになる可能性 どの製品ファイルを再評価するか、商標変更後の責任分担
システムインテグレータが用途や更新経路を変更 変更者がメーカーになる可能性 変更前後の境界、影響範囲、引き渡す証拠

部品やファームウェアが単独で対象になる場合

日本メーカーがロボットコントローラ、産業用ゲートウェイ、通信モジュール、保守用ソフトウェア、ファームウェアパッケージを自社名義でEU市場に出す場合、その部品やソフトウェア自体が別のデジタル要素を含む製品として扱われることがあります。

判断は三つに分けます。

質問 実務判断
ソフトウェア、ファームウェア、またはデータ処理可能なハードウェアを含むか コントローラ、ゲートウェイ、通信モジュール、保守ソフトウェアは確認が必要
日本メーカーの名前または商標でEU市場に出るか その場合、日本側がその製品のメーカーになる可能性があります
直接または間接のデータ接続があるか 接続機能のない同一仕様の交換用部品まで自動的にCRA対象と書かない

EUブランド完成品の内部部品としてだけ供給する場合、対外的な責任は完成品ブランド側に残ることが多いです。ただし、そのブランドはSBOM、脆弱性判定、更新、サポート期間の証拠を契約で求めます。

補足: 同じモジュールでも、販売経路によって日本側の役割は変わります。ある部品メーカーが産業用通信ゲートウェイを2つの経路で出荷するとします。1つ目は、自社ブランドを付けてEUの販売事業者へ直接販売する経路です。このとき、そのゲートウェイは単独で市場に出るデジタル部品製品であり、日本メーカーがその製品のメーカーになります。技術文書、適合性評価、SBOM、脆弱性対応、サポート期間はすべて日本側が負います。2つ目は、同じゲートウェイをEUの機械ブランドに納入し、その完成品に組み込まれる経路です。このとき、完成品を自社名義で出すEUブランドがメーカーであり、日本側の義務は規制ではなく供給契約から生じます。つまり、SBOMと脆弱性の根拠をブランドへ渡す証拠提供の義務です。ファームウェアのコードは同じでも、責任の線は2つの経路で完全に異なります。

OEM供給で日本側が「関係ない」と言えない理由

EUブランドが対外的なメーカーになる場合でも、日本側の証拠がなければEUブランドは義務を満たせません。

たとえば日本のFAメーカーがEUの機械メーカーへロボットコントローラを供給する場合、完成機械はEUブランド名で販売されるかもしれません。それでも、コントローラのファームウェアSBOM、更新署名、脆弱性判定、サポート期間、CVD窓口、リリース履歴は日本側にあります。

契約で求められる典型項目は次の通りです。

  • 製品または部品ごとのSBOM
  • 脆弱性を受けたときの一次判定と短時間通知
  • 修補版ファームウェアとリリースノート
  • サポート終了年月と長期供給品の例外
  • 技術文書に入る設計・試験・リスク資料
  • EUブランドが当局に説明できる証拠リンク

ここで重要なのは、法的な対外責任と契約上の証拠責任を分けることです。OEMだから直接通報しない、という場面はあります。しかしOEMだからSBOMも脆弱性情報も出さない、という選択肢は実務上ありません。

契約では、項目名だけでなく具体的な値を固定してください。「協力する」とだけ書くと、脆弱性が出た日に誰が何分以内に何を出すかが決まりません。

契約項目 契約で固定する具体値
SBOM 形式(CycloneDXまたはSPDX)、提供単位(製品・部品・ファームウェア版ごと)、更新タイミング
脆弱性の一次判定 判定の責任会社、一次回答の時限、連絡窓口(PSIRT)
修補 修補版の提供義務、リリースノートの言語、配信経路
サポート期間 サポート終了年月、長期供給品の延長条件
技術文書協力 提供する設計・試験・リスク資料の範囲、当局照会時の対応時限

輸入者と販売者が見るチェック項目

EUの輸入者は、メーカーが必要な評価を行い、技術文書を作り、CE表示、適合宣言、ユーザー向け情報、メーカー情報、サポート期間を用意しているかを確認します。販売者も、製品をEU市場で提供する前に、見える範囲でCE表示、書類、メーカー・輸入者情報、ユーザー向け情報を確認します。

日本メーカーがEU輸入者に渡すべき実務パックは、次のようなものです。

パック 中身
表示・書類 CE表示、EU適合宣言、製品識別、メーカー連絡先、サポート終了年月
サイバー証拠 SBOM、脆弱性処理手順、CVD連絡先、更新方針
技術文書索引 リスク評価、設計管理、テスト記録、部品証拠、標準・認証の利用状況
事故時連絡 24時間で動けるPSIRT連絡先、EU販売国、輸入者・販売者一覧

輸入者や販売者は、日本メーカーの技術文書を代わりに作る役割ではありません。ただし明らかに不備がある製品をそのままEU市場に出すこともできません。したがって、日本側の証拠パックが薄いと、通関・販売・契約更新の段階で止まります。

認定代理人は「代理メーカー」ではない

EUに拠点のない日本メーカーは、EU規則2024/2847のもとでEU内の認定代理人を委任できます。これは実務上便利です。市場監視当局との連絡、適合宣言や技術文書の保管、当局への協力といった窓口機能を持たせられます。

ただし、認定代理人は設計、開発、リスク評価、サポート期間、脆弱性対応、製品の適合性そのものを引き受ける存在ではありません。委任状で何を任せるかを明確にし、メーカー側の責任を外部委託したように書かないでください。認定代理人に委任できる範囲と委任状の書き方は、EU認定代理人の役割と委任範囲で詳しく扱っています。

実務上は、認定代理人の有無よりも、次の資料が先に必要です。

  • EUに出る製品一覧
  • 技術文書の保管場所
  • どの会社がEU適合宣言に署名するか
  • 脆弱性通報時の社内意思決定者
  • 輸入者・販売者・主要顧客の分布

役割が変わる危険な変更

輸入者、販売者、インテグレータ、OEM先が次のような変更を行うと、単なる販売ではなく、新しいメーカー責任に近づきます。

  • 自社ブランドまたは自社商標で販売する
  • ファームウェアを差し替える
  • 更新サーバーや署名鍵を変える
  • クラウド管理サービスを別のものに置き換える
  • ロボットやFA装置の用途を安全・サイバー面で大きく変える
  • セキュリティ機能を無効化または追加する
  • 製品のサポート期間や更新方針を変更する

変更が製品のサイバーセキュリティに影響する場合、責任は変更した部分に限られることもあれば、製品全体に及ぶこともあります。ここは契約で曖昧にせず、変更前の証拠、変更後の証拠、どちらの会社が顧客通知と修補を行うかを決めておく必要があります。

逆に、次のような変更だけであれば、通常はメーカー責任を生じさせません。

  • メーカーが出したセキュリティ更新をそのまま配信または適用する
  • 用途を変えず、リスクを上げない軽微なUI変更(表示言語の追加など)
  • 開封や改造を伴わない再梱包・ラベル変更、または用途を変えない保守・修理
  • 接続機能を加えない、同一仕様部品の交換

判断の基準は二つだけです。製品のサイバーセキュリティ適合性に影響するか、想定された用途を変えるか。どちらにも当たらない変更は、販売や設置の範囲にとどまり、メーカー責任は元のメーカーに残ります。

脆弱性・重大インシデント発生時の役割分担

積極的に悪用されている脆弱性や、重大な製品セキュリティ事故が出た場合、CRAは短い時限を課します。対外的なメーカーが、ENISAの単一報告プラットフォーム(SRP)経由で調整役CSIRT 1か所へ通報します。流れは次の通りです。

  • 24時間以内:早期警告
  • 72時間以内:脆弱性・インシデントの詳細通知
  • 最終報告:脆弱性は修補の提供後14日以内、重大インシデントは72時間通知の後1か月以内
  • 並行して、影響を受ける利用者への情報提供

この報告義務は2026年9月11日から適用されます。製品の主要な義務全体は2027年12月11日からです。

問題は、対外的にEUブランドが通報する場合でも、24時間の早期警告に必要な情報の多くが日本側にしかない点です。どのファームウェア版が影響を受けるか、悪用の性質、暫定的な緩和策、修補版の見込みは、設計と更新を持つ日本メーカーが最初に判定します。

役割 脆弱性・インシデント発生時にやること
日本側メーカー(設計・更新を持つ) 一次判定、影響範囲の特定、修補版とリリースノート、対外メーカーへの即時連絡
対外的なメーカー(自社ブランドの日本メーカー、またはEUブランド) SRP経由の通報、利用者への情報提供、最終報告
輸入者・販売者 メーカー・当局連絡の中継、影響を受けた製品の販売・在庫の扱い
EU認定代理人 委任の範囲内で当局連絡を支援、文書の提示

OEMでは、「通報するのはどの会社か」と「24時間以内に判定材料を出すのはどの会社か」を契約で分けておく必要があります。EUブランドが通報主体でも、日本側の初動が遅れれば早期警告の時限は守れません。通報先CSIRTの決め方はCRAの脆弱性通報先CSIRTガイド、報告義務そのものの詳細はCRAの脆弱性報告義務ガイドを参照してください。

よくある質問

EUブランド向けOEMなら、日本メーカーはCRA対象外ですか?

対外的なメーカーはEUブランドになることが多いですが、日本メーカーが無関係になるわけではありません。EUブランドはSBOM、脆弱性判定、修補、サポート期間、技術文書の該当部分を日本側から受け取らなければ、自社の製品ファイルを完成できません。

EU輸入者がいれば、日本側の責任はなくなりますか?

なくなりません。輸入者は確認と市場投入の責任を持ちますが、自社ブランドで販売する日本メーカーの技術文書、SBOM、更新、脆弱性対応を代わりに作る役割ではありません。輸入者が確認できる証拠を日本側が用意する必要があります。

認定代理人を置けば通報や技術責任を任せられますか?

任せられる範囲は限定的です。認定代理人は当局連絡や文書保管を支援できますが、設計、リスク評価、脆弱性対応、サポート期間、製品の適合性そのものはメーカー側に残ります。

EUのシステムインテグレータがロボットセルを作る場合は?

ロボットメーカーはロボット本体やコントローラの証拠を持ちます。インテグレータがセル全体を自社名義で市場に出す、または用途・更新経路・安全構成を大きく変える場合、インテグレータ側にもメーカー責任が生じ得ます。部品と完成セルの境界を契約で分けてください。

EUに拠点がない日本メーカーは、どのCSIRTに通報しますか?

CRAの通報はENISA SRPから1か所のEU調整役CSIRTへ提出します。EUに主たる拠点がない場合は、認定代理人、輸入者、販売者、利用者所在地の順に最初に当たる加盟国で決まります。詳しい決め方はCRAの脆弱性通報先CSIRTガイドを参照してください。

次にやること

  1. 販売名義を製品ごとに分ける。 自社ブランド、EUブランドOEM、部品供給、インテグレータ向けを混ぜない。製品がそもそもCRA対象かに不安がある場合はCRA適用判定ツールで確認できます。
  2. EU側の役割を一覧化する。 輸入者、販売者、認定代理人、主要EU顧客を製品ファイルに入れる。
  3. OEM契約に証拠条項を入れる。 SBOM、脆弱性判定、修補、サポート期間、技術文書協力を明記する。
  4. 変更トリガーを定義する。 ファームウェア、クラウド、更新経路、用途変更で誰が再評価するか決める。
  5. 通報ルートを事前に決める。 2026年9月11日から、積極的に悪用された脆弱性と重大な製品セキュリティ事故は短時間で動く必要があります。EU拠点がない場合の通報先はCSIRT決定ガイドで事前に確認してください。

CRA対応は、誰か一社が全部を背負う話ではありません。日本メーカー、EUブランド、輸入者、販売者、認定代理人が、それぞれ何を確認し、どの証拠を持ち、脆弱性時に誰が動くかを先に決めることが、2026年以降のEU取引を止めないための前提です。CRA Evidence は、販売名義、OEM契約、輸入者・販売者の役割分担を製品ファイルに落とし込み、SBOM・脆弱性判定・サポート期間・通報ルートをどの会社が持つべきかを整理する支援を行います。整理が必要な場合は無料アセスメントをご予約ください。


本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の製品・契約・販売経路については、EU製品規制に詳しい専門家に確認してください。

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